徒然なる熊さんのお薦め本7

「評伝シャア・アズナブル」上  著者「皆川ゆか」 講談社

今まで私の拙い書籍解説ページをご覧になってきた方は「あれ、どうしてこんなフィクション系のミーハーなコンテンツを作ったのかな?」と不思議に思っておられるかもしれません。・・・確かにこの「シャア・アズナブル」という人物も、彼が登場するアニメ「ガンダム」シリーズも現実の世界ではなく、架空の世界に存在してるものです。・・・しかし「所詮、フィクションさ!」と決め付けてしまうには、あまりにもこのアニメは世の中に多大な影響を与えてきた訳で、最早「フィクション」と呼ぶべきよりもこの宇宙の何処かで実際に起こった(あるいは近未来に起こるであろう)壮大な物語として捉える方が現実味がある!・・・という稀有な作品であるのは間違いない事なので、こうして取り上げさせてもらいました。
尚、「現実味がある」と言いましたのは「ガンダム」という物語全体に流れる重厚な「文明論」や「人間模様」、さらには「人類進化論」(いわゆるニュータイプ論)が随所に散りばめられている事は勿論の事、それ以外にも一つの特徴として作品中に登場してくる「人物」や「固有名詞」が現実社会で確固たる「意味」を持つ名前として使われている事が考えられる・・・と私は感じているのです。(これは、多分原作者の富野由悠季氏も意識して作品中の登場人物名や組織名にその名詞をあてはめたと考えているのだが・・・)その辺りの事も考えていくと、富野氏の根底にある「思想」らしきものにも・・・触れていく事が出来るのではないか?・・・と考えて本書を取り上げて見ました。・・・

「宇宙世紀」としての時代背景(予備知識として)

・・・もっとも、このページをご覧になってる方というのは既にある程度の知識は持ってる事と思いますが「確認」の意味も込めて少々・・・
「スペース・コロニー」・・・宇宙に浮かぶ人工の大地、直径6.4km、全長30km以上の円筒形で 1基あたり2000万から2500万人の人口を擁していた。

宇宙に浮かぶ数十基の「スペース・コロニー」への移民が開始された年、地球連邦政府はそれまで使用していた西暦(AD.)から宇宙世紀(UC.=Universal Century)へと呼び名を変えた。(1年戦争時はUC79年)連邦政府は「夢のコロニー移住」を掲げ、地球規模の1大キャンペーンを行う。月面の恒久都市やスペース・コロニーの建設を始めとする大規模プロジェクトは経済を活性化させた。宇宙世紀移行時には地球に限られていた経済活動は、移民の増加と共に拡大し半世紀の内に、地球と月、6つのサイドによって構成される「地球圏」にまで広がっていった。この時期、宇宙には「一攫千金」の夢があったという。・・・だが、宇宙への移民政策はもともと明るい側面から実行された訳ではない。「増えすぎた人口を宇宙へ移民させた」と言われる様に、人類の数は地球で養い切れる限界に達していて打開策は宇宙への移民しかなかった。そのため、地球連邦政府は志願者による移民を募集するだけではなく、強制的に宇宙へ移住させる「棄民政策」を実施した。 (この事が後々の宇宙移民者と地球居住者との軋轢となっていった事は想像に難くない。・・・)

この政策により、連邦政府はUC40年代には総人口の4割を宇宙移民者とする事に成功した。UC50年代に入ると、全人口の8割が宇宙移民者となり連邦政府は新規のスペース・コロニー開発計画を見送りにする。この頃から連邦政府内では、政治、経済の主導権が宇宙に移行する事を恐れる空気が広がって行く様になる。現実は、連邦政府にとって「スペース・コロニー」とは自分たちの「植民地」でるとの認識が強く、政治においては「支配」、経済関係においては「搾取」が基本となっていた。

・・・しかし、この様な施策が反発を生まぬ訳はなくスペース・ノイドの自治権欲求運動が各サイドで勃発する様になる。その様な状況下で、UC52年1人の男がサイド3へ移住する。名前は「ジオン・ズム・ダイクン」シャアの実父である。ダイクンは「各サイドの政治的、経済的自立は可能である」との信念を持ち、スペース・ノイドが自治権を持ち、国家を構成するべきだという「サイド国家主義」を掲げた。ここで、何故ダイクンはサイド3を自らの活動拠点としたのか?という疑問に対しては、
1.地球から最も遠いコロニーだったから
2.サイド3生まれの人々は月の裏側で生活してるため、地球を見た事がない
3.1.2.の理由により、他のサイド居住者より格段に独立心が強かった・・・という背景があったためらしい。

「ジオン・ズム・ダイクン」(?〜UC68年)当時、地球居住者に対して、劣等感を持っていたスペース・ノイド達にとって正に希望の星であった

キシリアの面前でマスクを取ったシーン・「手の震えが止まりません・・・」

ブライトの前で 「シャア・アズナブル・・・私の兄です。」

ダイクンが掲げたこの「サイド国家主義」は後に「ジオニズム」と呼ばれる独自の歴史観となる。さて、この「ジオニズム」という言葉だが明らかに原作者富野氏はユダヤ人の近代における文化復興運動である「シオニズム」を意識して造語したものと思われる。ダイクンのファーストネームも「ジオン」だが、この言葉も古代ユダヤ国家の首都・聖地「エルサレム」の市街地にある「シオンの丘」を連想させる。もしかしたら、ジオンやその子達である「キャスバル」や「アルティシア」は「皆「ユダヤ人」の末裔達ですよ。」と言いたかったのかもしれない。・・・       (ちなみに、本名ではない「シャア」を「シャー」と表記すると、ペルシャ語で「王」を意味します。同じく妹の偽名「セイラ」は恐らく「セイラム」から来たものであり、この言葉は「エルサレム」の古い呼び方であり、「平和」を意味する言葉となります!「シャア」がセイラと初めて邂逅した時、「あの人一倍争い事を嫌ったアルティシアが・・・」と言ったセリフを思い出して下さい。)この様に「ガンダム」に登場してくる人名、地名は現実世界に関係してるものが多り、そのため妙な現実感を伴って私たちに迫ってくるのではないか?・・・と思うのです。また、後で述べますが富野氏の宗教思想らしきものも垣間見れる部分もあります。

・・・話をダイクンの「ジオニズム」に戻しまして、この思想が求めた帰結として「人類進化論」が展開されてくるわけですが、彼の説によれば「人類が宇宙に出て行った事は、進化のための必然である。・・・彼らは宇宙という広大な空間で生きていくために必要な高い洞察力と状況認識を持つだろう。この能力は同時に、人の間の意思疎通をより円滑にし誤解無く事物の総体を認識する事を可能とする・・・新しい人類を生み出す事になろう。(ニュータイプの出現)と、主張するわけです。この思想がスペース・ノイド達の共感を受け遂に、ダイクンはUC58年サイド3で「共和国宣言」を行う。そして、初代首相に就任する。それに対し連邦政府は国家として認知せず、宇宙移民者による「叛乱」と見なしサイド3に経済制裁を実行、国家の消滅を画策した。これに対しダイクンは太陽発電により得られる豊富な電力を月面の恒久都市群へ輸出する事で、経済制裁に対抗した。・・・
しかし、この政策は共和国内の強硬派(デギン・ザビ)との政治的対立を生んだ。ダイクンの右腕として革命に参加したデギンは、ダイクンの方針を 「手ぬるい」と考え連邦からの分離独立を主張し、そのためには軍事力の行使も辞さないと考えていた。デギンはそのため、サイド3に駐留する連邦軍部隊の切り崩しを行ったり軍事資金調達のために、地球に赴き「希少金属」の採掘を行ったりと「軍事」と「資金」の両面でジオンを支援していた。その様な中、ジオンが目指した貿易による自主経済活動を中心とする共和国の運営は連邦政府により、挫折の様相を呈していた。そしてジオンは心臓発作を起して急死してしまう。・・・これをジオン派の人々やシャアはデギンの仕業と見抜き、報復を試みていく訳だがデギンを中心とするザビ家は狡猾にジオンを暗殺したのは自分達である事を悟られぬために、実権を治め国を統治するにあたり、ジオンの名を国の名に使ったり、首都の名を「ズム・シティー」と彼のミドル・ネームを使ってみたりと・・・国民の目を欺こうとした。
・・・以上の過程が1年戦争前のスペース・ノイドと連邦軍との経緯であった。

デギン・ソド・ザビ・・・政敵ジオンを倒してジオン公国を建国した後は、連邦政府に対しては、それほど強硬的な態度は示していなかったが長男のギレンの暴走を止められなかった様である・・・

1年戦争時における足跡・・・

ご存知この時期のシャアは人前では仮面を付けて決して素顔を晒そうとはしなかった。その理由は?本書内で実に上手に皆川女史が解説してくれているので少し引用してみよう。・・・「仮面という存在に込められた表象をW.B.イェーツは次の様に定義している。(社会的自己を意味し、自分の個性に対する本人の考えと他人の考えとの相異を表す。また、防御の鎧となり、攻撃の武器ともなる。)シャアという偽名はザビ家に近づくための「仮面」であった。彼はキャスバルとしての復讐心を仮面の下に隠し、ザビ家の信頼を得て末弟ガルマを謀殺している。「防御の鎧」であり、「攻撃の武器」だ。・・・」正にその通りである。 シャアという人物は決して自分の感情を内に抑えるタイプではない。戦況分析や状況予測等、冷静に見通す事は出来るが、ある意味ではアムロ同様戦いにおいては「ストレート」に生の感情をぶつけてくる事もしばしば見受けられる。「仮面の男」=「冷淡な男」ではない。(ザビ家の人間に対してはそうだったのかもしれないが・・・)むしろ「熱い男」なのだ。ただ、あまりに冷静に自己分析をして、度々私たちの前で「独白」してしまうので、その様なイメージがあるかもしれない。

さて、一年戦争時この若者は弱冠20歳の青年であったが恐ろしいほどに冷静に自分を、そして、政治情勢を分析できる若者であった。(ザビ家に復讐出来た事を鑑みても解る事と思う)・・・しかし、唯一この自分に対する自信を根底から揺さぶって来る存在があった。・・・そう、それが連邦の「白い奴」、「ガンダム」であり、ニュータイプ人間の「アムロ・レイ」であった。最初の遭遇ではこのアムロがニュータイプだとはシャアは気付かないが、(ただ、ひたすらにガンダムの高性能に驚くばかりであったが)

よく、ノーマルタイプのザクの3倍のスピードで動けたと言われるが、これはオペレーターの見間違いの様である。(実際は30%程、スラスターの出力が強化されているだけである。)
開発当初はジオン軍内部に対抗できるモビルスーツなど皆無だった。長くジオンの兵士達から「白い悪魔」と恐れられる
地球で連邦軍ジャブロー基地内で2度目の遭遇を得ても、シャアはアムロがニュータイプだとは思わなかった様である。(この話は少し滑稽だ。何故ならこの戦闘より前に「黒い3連星」との戦いにおいて、彼らから「あのパイロットめ、間違いなくニュータイプだ!」と言わしめているのだから・・・)ただ、「私にプレッシャーをかけてくるパイロットとは一体何者なんだ?」と、相手がただ者ではない事は認める様になったのは確かである。

運動性能においてはまだガンダムに適わないが、ビーム兵器を搭載したモビルスーツであった

再び宇宙に上がり、この頃になるとアムロのニュータイプとしての戦闘能力もかなりレベルアップしてくるが、シャアが初めてアムロをニュータイプとして認めるのはテキサス・コロニー内での戦闘であった。

この段階において初めてガンダムと遜色ない運動性能を持ったモビルスーツの登場となる。ビームライフルも強力である

・・・この戦闘は背後からシャアがビームライフルでアムロのガンダムを撃つというものだったが、これがことごとく外されてしまう。それで「厄介な事になりそうだ。・・・ガンダムのパイロットもニュータイプだとはな。・・・」と認識するのである。シャアが「ガンダムのパイロットも・・・」と発言してるのは彼自身が見出し、育てていたニュータイプパイロット「ララァ・スン」の他にも!という意味が込められている。

ララァ・スン・・・1年戦争時、最高のニュータイプとの誉高い。シャアを庇っていなければその後の物語はかなり違っていただろう・・・

このララァとの関係がシャア、アムロ共にお互いの人生の生き様にとても深い影響を与えて行くのだが、ララァ本人は自分を見出してくれたシャアに対して深い恩義を感じ(一説によれば地球で売春婦をしていたとか・・・)命を懸けて守ると決意してるが、ニュータイプ同士として深い共感を得たのはシャアのライバルであるアムロであった事は何とも皮肉な話である。・・・ここで、考えられる事はシャアがララァと生命からのニュータイプ同士としての共感を得る事が出来なかったのは、やはり後に「ア・バオア・クー」で一般論として彼自身が「今という時では、人はニュータイプを殺し合いの道具にしか使えん。」と言い切っているが、これは彼の本音そのものではなかったか?と推察出来る。尚、自分を庇って爆死したララァに対してシャアはマスクの下で確かに「涙」を流すが、皆川女史によれば「それを単純に恋愛感情によるものと片付ける事は出来ない」・・・と一刀両断している。これは私も同感である。何故なら戦いに敗れ一人戦場を去るコクピット内で「今の私にガンダムは倒せん、ララァ、私を導いてくれ。」と呟いているが、このセリフこそが証拠であろう。・・・若しシャアがララァを本当に愛しい恋人として認識していたなら、次の様なセリフになっていた筈である。「おのれ!アムロ!貴様だけは許せん!ララァ、お前の仇は私が絶対に討つ!見ていてくれ!」・・・と。 結局、シャア・アズナブルという男は「もうこの世にいない人」にさえ嘆願してしまう弱い一面を見せてしまう事になる。

ニュータイプ専用モビルアーマー・エルメス・・・無線サイコミュ誘導(人の思念波でコントロール出来る装置)のビットは全部で12基装備されていた。作品中ではアムロがララァの思念を読み取り1基ずつ打ち落としていくが、これは現実にどうだろうか?ビットは数基まとめてコントロールする事は可能であったはずであり、ガンダムは1つのビームライフルで1つのビットに対し攻撃する事しか出来ない。しかも、ライフルを撃った時にはガンダムの動きは止まる!・・・ララァがその気になったならば、数基まとめてガンダムを一斉射撃する事は可能であったはずである。だが、実際にはしなかった。恐らくソロモン宙域で遭遇した時から、ララァには本気でアムロを殺そうという意思は持てなかったのではないか?と推察する。・・・ララァ・スン本当に哀しい女である。(私個人的にはこのエルメスこそ、ガンダムに登場する機動兵器の中では最強兵器だと考えている。)

考証・「ニュータイプ」とは?・・・・・

 1年戦争も末期になると本格的に「ニュータイプ」人間が戦場の第一線で活躍する様になってくるが、この「ニュータイプ」とは如何なる人間の事を総称するのか?・・・ここで改めて検証して見たい。シャアの実父であるジオンの定義によれば「宇宙という広大な空間で生きていくために必要な高い洞察力と状況認識を持つ」人間という事になるが、実際に私達地球人で宇宙に出て行った人々(当然、宇宙飛行士になる訳ですが)でこの様なコミュニケーション能力を得た人はいるのだろうか?・・・残念ながら私には解らない。ただ、一様に宇宙から地球を見た人々は地球をかけがえの無い尊い存在として、この地上に暮らす人々は争い事などせず調和して共存して生きていくべきだと強く感じるそうである。・・・ララァはジオン軍最高のニュータイプだが、確かにアムロの言う通り「戦いをする人ではなかった!」のであり(高い洞察力と状況認識を持つ人間同士では争う必要も出てこない訳だが・・・)私が「面白いな。」と思ったのは彼女がインド出身の貧民であった・・・という事である。彼女は何故インド出身でなければならなかったのか?ここに富野氏の「思想」が表れている感じがしてならない。(後のアクシズを率いたニュータイプ人間、「ハマーン」は父親の名前から推察するにアラビア系の人間の血を引く女性だと思われるが)彼女はインドに住んでいた頃より、ずば抜けた「洞察力」や「予知能力」らしきものを発揮していたらしいがこれは恐らく「ヨガ」や仏教の修行法である「観念観法」の実践により、心の内面の奥低にあるとされる「アマラ識」=「第9識」の顕現に成功していたのではないか?・・・と推察する。

ここで少し難しい話になり恐縮だが仏教用語「阿摩羅識」(アマラ識)について説明します。人は誰でも「無意識」の領域を持っているが、その最深部にあり、尚且つ最大の広がりを持つ領域が「アマラ識」となります。どれくらいの広がりかと言うと「宇宙生命」それ自体とされています。何ともスケールの大きな話ですが仏教ではよく出て来る教えです。「己心を観じて、十法界(全宇宙の事)を観る」若しくは「一心一念法界に遍し」・・・等等こんな教えが仏教では随所に出てきます。つまり、仏教で言うところの「悟り」を得た人とは「自分の心の中には全宇宙の森羅万象の移ろいさえも含まれている。(若しくは関連して共鳴し合っている)」と実感できた人の事を指します。彼女ララァ・スンはこの心的境地に達していた。だからこそ、ソロモン宙域において目視出来ない遠距離からサラミス艦4隻をビットで撃沈させたり名前を知らぬアムロの存在を彼の人格的本質まで知り得たのではないか?・・・と推論するのです。

ララァが最後にこの世を去り行く際に「あぁ、アムロ、時が見える・・・」と呟いたのは、この世界(3次元世界)の移ろい行く様は目に見える現象により(それは厳密に言えば光の反射作用によって認識出来る訳だが)つまり、時間の流れによって認識出来る世界であるのだが彼女は最後に自分が去り行くこの世界を「この世」=「時間が流れる世界」を命全体で理解した!・・・と(それはまた、3次元以上の世界、4次元世界?へ自分が移行して行く最後のパノラマを見た事でもあった)アムロがその少し前に「そうさ、人はいつか時間さえ支配できる事が出来るさ・・・」と言ったのは(これも難しい解釈が必要になるが)これも私の主観的推論になり恐縮だが、人がただ単に「不老不死」になる(これも実現すればすごい事だが)事ではなく、やはり、人の意識が「時間さえ支配できる」=「時間エネルギーを超えた4次元世界を正確に認識、自由に行き来できる?」様に進化する。・・・ことではないか?と考えてみました。

興味のある方は読んで見て下さい(別にこれを読んでニュータイプになれるわけではありませんが)・・・
・・・・・話を元に戻しまして、連邦軍とジオン軍の最終局地戦になった「ア・バオア・クー」の戦いでシャアとアムロの最後の戦いが繰り広げられるわけですが、

サイコニュ兵器搭載の「オールレンジ攻撃」可能なジオン軍が最後に開発したモビルスーツだが、足の無い未完成の状態で出撃となった

この戦闘中に初めてシャア自身で「しかし、私もニュータイプのはずだ!」と自分の資質を声に出して独白している。それまでは多分心の中では自分こそが父が提唱していた進化した人類=「ニュータイプ」だと自負していたはずである。ただ態度に出さなかっただけであろう。このアムロとの戦闘中にコクピットの中でこの様なセリフが彼の口から出て来るのは、相当に自分自身に対して「焦り」を感じていたと言えるだろう。若しくは、「あの、アムロとかいう少年だけが優れたニュータイプではない!宇宙生まれの私にだってやれるはずだ!」・・・と自分で自分を叱咤激励していたのかもしれない。結局、勝負は「相討ち」という形になるが実際にジオングの方がビーム力?の強い攻撃性能の優れた機体であったので、やはりパイロットとしての能力はアムロの方に軍配が上がるだろう。この両者は互いの機体を失った後も生身での戦いを演じているが、その際に交わされるセリフのやりとりが面白い。シャアの曰く「人は流れに乗ればいい。・・・だから私は君を殺す。」・・・この言葉はどんな意味を持っていたのか?

ここで、シャアが言った「流れ」とは何であろうか?考えるに、連邦軍がジオン軍に勝利を収めニュータイプがオールドタイプとしての体制側の人間に「道具」として利用される事が終わる時流・・・という事でもなさそうである。(むしろ、後で述べるが連邦軍勝利の後はニュータイプを「強化人間」として人工的に創り上げ戦争に積極的に利用していたのだから・・・)ここでの意味は恐らくシャア自身が目標としていた「オールドタイプの人間は殲滅して、さらにオールドタイプの体制側の人間達に利用されているニュータイプも排除して行く」という独善的な独りよがりの意思であったと思われる。(実際、後年その様に実行して行くのだが・・・)

結局、1年戦争を通してシャアが得たものとは「ザビ家」への復讐だけであったと思われる。(何故か半分はアムロが手伝っている形だが・・・)逆に失ったものは、「自己の最高のパートナー・ララァ」(彼の目的利用としての)、「妹セイラからの信頼」、「絶対的エースパイロットとしての地位」・・・等といった所であろうか?あなたはどう思う?・・・

「グリプス戦役時における足跡」

この時期のシャアは「クワトロ・バジーナ」という偽名と軍籍を連邦軍から非合法的に入手して、「反地球連邦軍組織」「エゥーゴ」に在籍している。1年戦争終結後、詳しくは書かれていないが「ジオン共和国」となった母国に彼は何のわだかまりも、執着も無かった様だ。本国に止まらずジオン軍残存勢力と共に小惑星「アクシズ」に向かっている。ここでシャアはドズル・ザビの遺児「ミネバ」の摂政役である「ハマーン・カーン」と政治的共闘を試みるが、互いの見解の相違によりシャアはアクシズより離脱、地球圏に向かう事となる。(もっとも、ハマーンは1年戦争の功績によりシャアに地球圏偵察のご褒美を与えたのだ。と言い放っているが・・・)

この時期からのシャアはもう仮面を付ける事はなかった訳だが、その理由として考えられる事は
1「ザビ家」に対する復讐が完了した事、
2自分が「ジオン・ダイクン」の遺児である事をそれとなくアピールしたい為、・・・等
が考えられる。

しかし、シャアは確かに仮面を付けてはいないが彼自身の態度は本当の彼の意思をカムフラージュする様な曖昧な態度に終始してた様に思われる。つまり、この時期のシャアは彼自身多分本当に内面において多くの「葛藤」に悩まされていたある意味「人間らしい」時期を過ごしていたのではないか?・・・と私には思われてならない。(カミーユはそんなシャアのハッキリしない態度に苛立ちを感じて、何度も殴っているが・・・)それに抵抗しなかったシャアもまだ、完全に自分の中で明確な答えを出せなかったのだろう・・・しかし、1つだけ彼の行動を後押しするものがあった。それは「スペース・ノイド」に対する差別、圧力に対しては断固、抵抗してこれを排除せよ!という行動意思であった。「ティターンズ」というアースノイド至上主義のジオン軍残党勢力狩りを目的としながら、実際は「スペース・ノイド」を弾圧して不当に搾取しようという勢力と対立する様になるのは、自然の成り行きであった。

・・・そんな中、ティターンズの宇宙拠点「グリプス」内で新型モビルスーツ・ガンダムMarkUのテスト操作が行われているとの情報を得たシャアは、2人の部下を伴いコロニー内に潜入する。

装甲材はガンダリウムγ(実はこれはシャアがア・バオア・クーの基地内で大破したガンダムから素材の1部を持ち帰ったルナ・チタニウム合金を改良して出来た合金であるという・・・)

ムーバブル・フレームを内臓した最初期の機体。ただし、装甲は旧来のチタニウム合金が使用されている。
このグリーン・ノアに接近する際に、シャアはかつての自分が遭遇した最高のニュータイプ「ララァ」や「アムロ」の感覚を感じるのだがその正体は15歳の少年「カミーユ・ビダン」であった。このカミーユとの関係はシャアにとって如何なる意味を持ったのだろう?・・・かつてのアムロと違って、対立する位置にはいない。一応は同じ「同志」である。共に「スペース・ノイド」の繁栄と安定を望んでいたに違いない。しかし、カミーユがシャア達に随行する様になった本当の理由は彼自身にハッキリとした政治的、思想的信条があった為とは到底思えない。アムロがサイド7でガンダムに搭乗してジオン軍と戦う事になったのは、「侵略者を防ぐため」という明確なる目的があったからだがカミーユの場合は両親との関係が上手くいってない事とか、(その両親は2人共ティターンズの技術者だったが)ただ単に思春期真っ只中の権威・権力に反抗的な年頃だったからとか、・・・その様な感じを受ける。(本当にエゥーゴの人間としてティターンズと戦う決心が着いたのは、目の前で両親が殺されたのを見た時からであろう。)シャアはこの少年を最初は興味本位で自分の側に引き込んでいったと思われる。だが、自分と同じ運命を少なからず担ってしまったカミーユに対し、またその優れたモビルスーツの操縦技術に対し自分の「同志」足り得ると判断していく。(カミーユのニュータイプの能力に対してはさほど気にかけてなかったと思われる。むしろ気にしていたのはアムロであろう。)

元々はZ計画の変形型として開発された様であったが、途中変更を余儀なくされた機体である。運動性能、格闘性能に秀でている。
この金色のモビルスーツ「百式」に搭乗する事により、シャアは「赤い彗星」というイメージとは違うパイロットとして活躍する事になるが、旗艦「アーガマ」内の何人かの人間は「クワトロ=シャア」だと気付いていた様である。だが、この時期「クワトロ」の偽名を使う彼はジオンの遺児という立場に自己を投影させる事はしなかった。・・・

vol8につづく

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